euphoria

音楽と人生と情緒

米津玄師は紅白で産まれなおした

 


米津玄師がいつか紅白に出るなんてことはもうみんなずっと前から知っていたことで、もちろんわたしもそうで、だから出演が発表されたときも特に何も思わなかった。Lemonの売れ方は規格外だし、話題性も抜群だし、米津さんもライブを重ねて生歌に対するハードルが昔よりは下がっただろうし、まあここしかないよねーくらいな感じで。そんなわたしは、テレビで歌う米津玄師の図が全く想像できていなかった。それがどういうことかも、あまり考えられていなかった。

 


歌い終わり最後の一音が消えたところで、米津さんが安心したようなでもどこか居心地が悪いような表情を浮かべたのを見た瞬間咽び泣いてしまった。Lemonは亡くなった祖父に向けて「あなたが死んで悲しいです」と言っているだけのシンプルで個人的な歌であると、米津さんがいろんなところで言っていた、記憶がある。(怖いからぼかしとく)結果的にその曲は普遍的なものとして多くの人に届くものになり、何百万人、いや何千万人単位の人々のものになった。

 


良くも悪くも。

 


“米津玄師”はひとつのコンテンツとして扱われるようになった。Lemonの人ねー、急に売れ出したよね。前髪長い人だよね。すごい名前だよねーなんて。米津玄師は2018年を象徴するひとつのトレンドワード。Lemonは今年のヒットソングのひとつ。そうして曲の濃度は薄くなっていく。“米津玄師”は人々のイメージで作り上げられていく。

 


それを打ち壊し、“米津玄師”が米津玄師というひとりの人間として、表現者として、日本のお茶の間に産まれなおしたのが今回の紅白だったように見えた。あの場で歌われたLemonが伝えるのはひたすらにパーソナルな悲しみだった。自分ひとりが両手を広げた範囲内の世界の曲。それをこんな大ヒットソングにしてしまうのだからやっぱり米津玄師は天才で、でも完璧ではなくてちゃんと人間で。歌がすごく上手いというわけではないところも、感情が滲んで歪んだ口元も。

 


喋るところ初めて見たなんて言われて笑い、いつもの訥々とした話し方で述べる感謝には心からの気持ちが込もっていてあたたかくて。これを機にまたテレビに出ることがあるのかもしれないしないかもしれない、なんにせよ、また先の米津玄師が楽しみになる濃密な5分間だった。まずは2月、約一年ぶりの全国ツアーで目撃できるのがほんとうに楽しみだよ。ずっとずっと尊敬できるひとです。